小児在宅医療を取り巻く現状

小児在宅医療を取り巻く現状

重要性が高まっている

医療的ケアを必要としている子どもは年々増加傾向にあります。その背景には医療の高度化により新生児の死亡率が下がり、それゆえ未熟児や重症児など医療依存度の高い子どもが増えたことがあります。少し前に、重症の妊婦が周産期施設に受け入れを拒否されたことが大きな話題となりました。受け入れ拒否の理由は、新生児特定集中治療室が満床状態となっていたためです。こういった事態が再び起きないよう、長期入院している子どもの早期退院を推進する動きが活発になりました。住み慣れた場所で生活ができるように、小児在宅医療に関する整備を行政は積極的に進めています。また、新生児だけではなく身体の成長によって症状が重症化した子どもに対する医療的ケアの需要も増加しています。「できるだけ自宅で一緒に暮らしたい」というご家族側の要望もあるため、小児在宅医療の重要性は高まっています。

現状の課題

まず、社会福祉制度上の課題が挙げられます。現在の社会福祉制度で対象となるのが、自力での歩行が困難であり、会話ができず、それに加えて自力では呼吸や栄養摂取ができない状態の「重症心身障害児」に分類される子どもです。しかし、自力で歩けたり会話ができるものの医療的ケアを必要とする子どもは数多くいます。そういった子どもたちの医療的ケアや生活援助はご家族が担うことになり、非常に負担が大きい状態です。また、年齢による区分によって複雑な支援体系となっている点も課題と言えます。
次に、医療提供者の課題です。小児在宅医療では医療機関や福祉サービス以外に地域コミュニティなどとの連携が求められます。しかし、小児在宅医療を専門に扱うコーディネーターが少ないので、連携がうまくいかないケースが増えています。また、小児在宅医療に関する専門的な知識や技術を持った医療機関やスタッフが不足しています。訪問看護を例に挙げると、小児在宅医療に対する診療報酬が十分とは言えず、高齢者向けの訪問看護に比べて参入のハードルが高いという課題があります。

課題に対する取り組み

まだまだ課題が多い状態ではありますが、これらの課題に対して様々な取り組みが行われています。行政は、2016年6月に「障害者総合支援法」を改正し、「医療的ケア児」が明記されるようになりました。これにより、地方自治体に対して支援体制の整備が努力義務として課されました。また、2018年4月には診療報酬、障害福祉等報酬において医療的ケア児の評価が見直され新たな加算基準が設けられたことにより、以前よりも小児在宅医療への参入ハードルが下がりました。今後もこのような動きは続いていくことが予想されます。

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